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『銅板造形作家 持田史人について』
 学芸員 井上正行

 銅板造形作家持田史人は、東京の青梅市で創作活動を行っています。「銅板造形作家」はききなれない言葉です。もしかしたら「銅版作家」という言葉のほうが一般的かもしれません。
例えばデューラー(1471-1528)やブレイク(1757-1827)はもっとも有名な銅版作家です。彼らは銅の板を傷つけ図柄を描き込み、版にして紙に転写します。印刷技術を活用した創作活動です。その為当然のことながら、銅版画自体は「紙」でできています。一方で銅板造形作家は、その版自体を使用します。つまり、銅の板を切ったり組み合わせたりすることによって作品をつくります。銅版作品は平面的であり、銅板造形作品は立体的であります。

ブリキ

 また、銅板造形物に似たものにブリキ細工があげられます。ブリキ細工は主に「鋼」で出来ていますが、後に紹介する持田の作品と造形的な部分で類似点がたくさんあります。しかし、大きな違いの一つに表面加工の有無があげられます。ブリキ細工の多くは塗装されておりカラフルですが、一方で持田やその師である赤川政由の作品は銅の色をそのまま活かすようにしています。また、ブリキ細工は玩具として世に広まった経緯がありますが、銅板造形物はそれとは異なった方法で広まっています。では、実際に銅板造形作家や彼らの作品について考えていきましょう。
 冒頭で持田の名前を紹介しましたが、その前に師である赤川政由について触れなければなりません。銅板造形作家の名は赤川からはじまりました。赤川のもっとも有名な作品群の一つに《銅人形の童たちが遊ぶまち》(1997-1998)があります。これらは埼玉県行田市の国道125号線沿いに飾られています。昔ながらの遊びに興じる子供たちを銅板で立体的に表現した作品で、1999年に彩の国さいたま景観賞奨励賞を受賞しています。(※参考サイト) また立川には平成元年に立川都市デザイン賞を受賞した《大きなケヤキとカワセミとセロ弾き》という作品もあります。これ以外にも立川駅周辺には数多くの作品が展示されています。これらの例から明らかになることは、町という公共空間に馴染むようにつくられているということです。実際に立川市の作品紹介のデータには

  BONZEの作品は、芸術作品として特別な目で見るのではなく、
  行き交う人のために何気なくたたずんでいるのがいい。
  愛すべき人形なら毎日見るうちに、
  風景の一部になり、
  やがて何かが伝わっていく。
  BONZE=赤川政由

と記されています。
 一方、持田作品にはどのような特徴があるのでしょうか。例えば、青梅を代表するラーメン店「いつ樹」(青梅)や「五ノ神製作所」(新宿)の看板を見てみましょう。新青梅街道沿いから見える「いつ樹」の看板は強烈です。徹底的なリアリズムに裏づけされた巨大なタイがエビをくわえている銅板作品が看板の一部になっています。また、都立新宿高校ちかくにある「五ノ神製作所」の看板にもエビが使用されています。このエビも同じくリアリティあふれる作品です。このリアリズムは動物に限りません。
いつ樹

例えば飲食チェーン店「ダンダダン酒場」の看板には銅板で作られた餃子が配されており、銅の金属っぽさは感じません。
 以上のことから持田の作品にも公共性がありそうです。しかし、赤川の作品紹介で述べたような「何気なくたたずんで」いるような雰囲気は感じません。何故ならばそこに持田特有の作家性が潜んでいるからです。そして、その作家性は徹底的なリアリズムに裏付けられています。ここで付け加えておきたいのは、リアルだから芸術的だとかそうではないから非芸術的だということではありません。あくまでもそのリアリズムは持田の特徴であるということです。
 持田のリアリズムについて考えるとき、再び赤川の作品群を思い出してみましょう。立川の赤川作品の中に《風に向かって》があります。少年が飛行機の模型を飛ばそうとしている作品ですが、この飛行機は持田が制作しました。立川の町から世界で初めて太平洋無着陸横断を達成した「ミス・ビードル号」を模していますが、持田は史実に基づいて実際のビードル号を再現したと語っています。ビードル号は立川に不時着してから、再度旅立つ間に機体に改良が加えられましたが、その部分も忠実に再現しています。当時からリアリズムを意識していたことがわかります。持田の工房に行くと様々な銅板の動植物を見ることができますが、そのどれもがいきいきと動き出しそうな印象を受けます。
風に向かって

 しかし、何もかもがリアルなのかといえばそうではありません。持田作品を代表する作品に《Corry》シリーズがあります。Corryはカエルを模したキャラクターです。Corryは帽子をかぶったりコートを羽織ったりまるで人間のようにつくられています。これまでのリアルな動植物と比べてCorryは表情豊かで愛嬌があります。カフェや一般家庭の表札やポストなどにも数多く登場するキャラクターでもあり、持田作品を語る上で欠かせない存在だといえるでしょう。もちろん、Corryのいたるところにもリアリズムが潜んでおり、くわえている葉巻や衣装、そして持っている新聞紙をみればその精緻さに驚かされます。

 最後に、持田史人の人となりについて少し触れます。トレードマークのニット帽と金色の長い髭はさることながらイカした刺青にも目が奪われます。性格は非常に温和、大人からも子どもからも愛されています。銅板造形作家の顔とは別にミュージシャンとしても活躍しており、バンド「Co-Red Brown」のフロントマンとしてライブも行っています。地域社会で大きな存在感を醸しているといえるでしょう。彼もまた彼自身の作品なのかもしれません。


 井上正行
青梅在住。会社員。大学で西洋美術史を修め、学芸員資格も取得する。卒業後は青梅で地元アーティストの展示会や映画上映会を開催することで、地域社会とアートの関係性を問いかけている。